ホロラボ Advent Calendar 2024の14日目の記事です。
こんにちは、2024年12月から執行役員に就任した及部です。前回に続き、私の得意分野である「アジャイル開発」をテーマに2本目の記事をお届けします。
「ホロラボとアジャイル開発」
- 受託開発でもアジャイル開発はできるのか、について本気出して考えて取り組んでみた
- 社員65人規模の会社におけるアジャイル開発のリアル(本記事)
前回は、ホロラボの主力事業である受託開発の中でアジャイル開発に挑戦し、その過程で得られた手応えについて書きました。まだご覧になってない方は、ぜひ上記リンクからどうぞ!
そして今回は、「社員65人規模」という、立ち上げたばかりのスタートアップでもなく、大企業ほど大きくもない中規模な組織におけるアジャイル開発のリアルを掘り下げます。XRや空間コンピューティングという変化の激しい技術領域で、「フィジカルとデジタルをつなげ、新たな世界を創造する」という会社が掲げているミッションを実現するためには、会社全体が柔軟に変化し続ける必要があります。今ホロラボでどのような変化やチャレンジが起きているのか、その ”リアル” をお伝えします。
はじめに
本題に入る前に、今回のテーマである「アジャイル開発」を、自分自身がどう捉えているかをご紹介します。
アジャイル開発は「あたりまえを打ち壊し、変化しようとする社会的ムーブメント」
アジャイル開発の説明として、アジャイルソフトウェア開発宣言の内容がよく引用されますが、ここでは敢えてその詳細には触れません。
あくまで個人的な見解ですが、私はアジャイル開発を「あたりまえを打ち壊し、変化しようとする社会的ムーブメント」だと捉えています。
1970年頃にウォーターフォールモデルが登場し、それまで職人芸的だったソフトウェア開発は、工業製品のようにモデル化された方法へと転換されました。しかし、同じものを繰り返しつくる量産の工程を効率化することで利益率があがっていく工業製品と、基本的に毎回一点ものに近いソフトウェアでは性質が大きく異なるため、うまくいかないケースがたびたび起きていました。
時は進み、2001年2月11日。ユタ州のスノーバードに、世界各地で軽量ソフトウェア開発手法において名声のある人たちが集まりました。集まった17名の参加者は、当時のソフトウェア開発の時代背景の中で、それぞれの現場で「もっとうまくできる方法はないのか」を模索し、体系化し、取り組んでいました。
この集まりは、今でいえばエンジニアコミュニティのイベントに近いイメージかもしれません。その場で参加者たちが議論を重ね、共通して大切にしていた価値観を整理・明文化したものが、後にアジャイルソフトウェア開発宣言としてWeb上で公開されました。その内容に世界中のソフトウェア開発者たちが熱狂し、アジャイル開発が誕生しました。
主催者であるRobert C. Martin氏は、当時の様子を著書でこうふりかえってます。
作業が終わり、みんなは普段の仕事・活動・生活に戻っていった。誰もが物語はそこで終わりだと思っていた。その後に非常に大きな支持を集めることになるとは、誰も想像していなかった。
これはエンジニアコミュニティのイベントで交わした議論や知見をブログで公開したところ予想外の反響が生まれて驚いた、そんな状況に近いかもしれません。
ウォーターフォールモデルとアジャイル開発を単純な二元論で語ることは意味がないと私は考えています。しかし、歴史的背景をふりかえれば、当時のメインストリームだったウォーターフォールモデルに対するアンチテーゼ、つまり反骨心のようなものが、アジャイル開発誕生の大きな原動力のひとつであったことは間違いないでしょう。
社員65人規模の会社におけるアジャイル開発のリアル
ホロラボに存在していた「あたりまえ」
リアルを語るうえで、ホロラボという会社の背景を整理しておきます。ホロラボは以下のような特徴を持つ組織です。
- 従業員数は約65名
- XRコミュニティをベースにできた会社で、エンジニア比率高め
- 主力事業はXRやメタバース領域における受託開発
- 一部では自社プロダクトやパッケージ製品の展開も行っている
詳しくは、ホロラボの概要やホロラボの歴史を御覧ください。 このような背景から、いくつかの「あたりまえ」が存在していました。
技術の領域展開
ホロラボは、XRや空間コンピューティングといった比較的新しい技術領域で実績を重ねてきました。その結果、これらの技術の活用を検討している企業から声をかけていただくケースがとても多いです。また、XRや3D技術に精通した優秀なエンジニアがたくさんいて、彼らの個人的なネームバリューや人脈から、仕事が舞い込むケースも少なくありません。
自分たちが得意としている特定の技術領域に対して仕事が集まる、これが「技術の領域展開」です。
繰り返されるPoC(Proof of Concept)
新しい技術領域に強みがあるゆえに、PoC(Proof of Concept = 概念実証)案件がとても多いです。そのため、受託開発案件の中でも、比較的小規模なPoCフェーズを何度もこなすことが習慣化していました。
チーム力というよりは個の力
受託開発が主力であるため、ほとんどのチームはプロジェクトベースで、プロジェクトがはじまるとチームができプロジェクトが終わるとチームが解散することを繰り返していました。私が入社した2022年7月当時、チームベースで仕事をしているチームは1〜2チーム程度でした。全体感としては「個人事業主が集まった技術者集団」のような印象を持ちました。
その一方で、一部のチームや個人はスクラム、モブプログラミング、ペアプログラミングなどを自主的に取り入れ、アジャイルコーチがついていたりしましたが、組織全体でチーム開発を整備していくような動きは限定的でした。
こうした「あたりまえ」は、これまでの成功体験や事業モデルから自然に生まれた一つのスタイルだったのです。
突きつけられた変化
しかし、外部環境の変化によって、この「あたりまえ」は通用しにくくなってきました。
まず、案件の性質の変化しました。比較的小規模なPoC案件だけでなく、本格的な業務活用の検討の案件が増えています。PoCの繰り返しではなく、そこからフェーズが進んで継続的な運用やサービス化を視野に入れた中長期的なロードマップが求められるようになりました。
それに伴って、技術スタックを広げる必要も出てきました。XRや空間コンピューティングそのものは引き続きホロラボの強みですが、本格的な業務活用の段階では、Webやクラウド、セキュリティやデータ分析など、さまざまな技術との組み合わせが必須になります。単純なプロトタイプに留まらず、本番環境でのスケーラビリティや信頼性を確保するためには、より多様な専門領域の知見とスキルが求められます。
このように業務要件が複雑化し、中長期的な視野が求められる中、個の力だけで問題を解決することは難しくなりました。ただ単に個の力を集めるだけでなく、個の力を組み合わせた「チーム力」で戦える体制が、これまで以上に重要になってきています。
経営合宿を通して受け止める
正直なところ、ホロラボはこれまでXRやメタバースの流行の波に乗り、コミュニティベースで集まったタレント力と技術力を活かして、事業を進めてきました。これ自体はすごいことだし、今後もホロラボの1つの強みとして残していきたい部分です。
しかし、こうした会社の成り立ちの負の面もありました。それは、会社や組織単位で戦略を立てて推し進めることができていなかったこと、自分たちの得意分野や過去の成功体験に固執してしまっていたことなどです。
社内外の変化に直面する中、2023年頃から、CEO/COOがメインで意思決定を行っていた体制から、複数のメンバーによる経営チーム体制へと移行しました。そして2024年10月頃からは「経営チームによる合議制」へとステップを踏み出しました。ちなみにこのホロラボ Advent Calendar 2024を書いている6人のメンバーで経営チームを構成しています。
半年以上にわたり社内外の変化と向き合い議論を重ねる中で、異なるバックグラウンドを持つメンバーの価値観がぶつかり、ときには場に持ち込まれるタフクエスチョンによって「うっ」とくることも何度もありました。(個人的にはこういう状況が最高に楽しかった)しかし、議論は繰り返されていくものの、大きな変化を決断するまでには至りませんでした。
そんな中、2024年9月に2泊3日で経営合宿を行いました。合宿冒頭では、「会社がうまくいったらどうなるのか」を各自が言語化・数字化するワークを行いました。やってみて驚いたのは、それぞれに言葉の表現は違えど、ビジョンレベルでは似たようなイメージを持っていたことです。そのワークを通して、自分たちが思い描いているビジョンを実現していくために、「この合宿中は会社の売上の桁をいくつか変えることを目指した議論をしよう」と合意しました。そこから3日間の合宿期間中、それまでとは打って変わって、議論がどんどん進んでいきました。この合宿を通じて策定されたものの一つが、会社のMISSION/VALUEです。
ホロラボの新しいMISSIONとVALUEを御覧ください。
今思えば、合宿を経て、経営チームは真の意味で「問題 vs 私たち」の構図になれたように感じます。ビジョンを共有できたときに、それぞれの過去や現在を受け止めて、議論を前に進めるコミュニケーションのベースができます。しかしこれは合宿がよかったというだけの話ではなく、半年以上に渡って議論してきた下地があったから生まれたものです。VALUEの1つである「桁を変えて考える」は、こうしたマインドセットを象徴するVALUEです。
この経営合宿を通して社内外の変化を受け止め、会社として変化に適応していくために大きな決断をしてきました。そして実際に2024年12月(ホロラボでは12月が期首)から新しい組織体制、人事制度、MISSION/VALUEの運用が開始されました。
全社チーム制へ
特筆すべきは、全社でチーム制を導入したことです。
自分自身がそうだったのでわかるのですが、チームで働くのがあたりまえの環境にいると「チーム制なんてあたりまえじゃん」と感じるかもしれません。しかし、前述の通りこれまでの会社の成り立ちで、受託開発中心でプロジェクト単位での組織運営があたりまえだったホロラボにとって、これは大きな決断です。ホロラボの得意である個の力はこれからも大事にしつつ、その個の力を集めたチーム力で戦えるようにしていくことが今のホロラボには必要です。
前回の記事にも書いた通り、私たちはホロラボにチーム転職してきました。長年にわたって培ってきたチーム開発やアジャイル開発の経験知は、強みにしている部分でもあります。それらを活かして、会社の中の各チームが「チームで早く遠くに行く」ことができるようにサポートしていこうと考えています。これは個人的な覚悟です。
これは「アジャイル開発」なのだろうか
もしかしたら記事のタイトルを見て、大規模アジャイルやスケーリングフレームワークの事例を期待したかもしれません。あるいはスクラムやモブプログラミングの全社的な導入事例を期待したかもしれません。しかし、私にとってのアジャイル開発は 「あたりまえを打ち壊し、変化しようとする社会的ムーブメント」 です。
自分が2011年にアジャイル開発に出会い、共感をし、今でも好きである理由は、アジャイル開発の反骨心(自分の言葉に置き換えるとプロレス魂)です。綺麗にプロセスを整えて、フレームワークを導入しても、アジャイル開発の真髄はそこではないと思います。
拙著「アジャイル開発とスクラム第2版」の中で、野中郁次郎先生は以下のようにお話されていました。
2020年には、そのスクラムが、ソフトウェア開発プロセス⼿法に閉じず、イノベーションのための「組織改⾰⼿法」として拡張されている、という話を聞いた。今度は、私の専⾨である組織論にまで彼の考えも及んできたのだ。私はもともとスクラムの概念を組織論として論じており、アジャイルスクラムが⼩さなチームの話だけで終わるはずがない、と考えていた。 そして、実際に、その変化が起きている。現在デジタルトランスフォーメーション(DX)という薄っぺらい⾔葉で語られる変化には、もっと⼈間の内⾯にせまる本質があるはずだ。
自分自身も最近に至るまで、この言葉の意味はよく理解できていなかったように思います。近年、アジャイル開発やスクラムの話が組織論に移り変わっていくことを、少なくともポジティブには捉えていませんでした。
長年アジャイル開発に取り組んできて、プロダクトの売上に貢献できたり、顧客に喜んでいただけたり、よいチームがまわりに増えていったり、それらの経験知をコミュニティで発信してフィードバックをいただけたり、チーム転職という社会実験の事例をつくることができたり、実際に手応えを感じている部分はたくさんあります。しかし、その一方で、あくまで「開発」「つくる側」というポジショントークを超えたインパクトをつくることはできておらず、もどかしさを感じている自分もいます。
自分の残りの人生を考えたときに、アジャイル開発を通してビジネスとして社会としてのインパクトを残す挑戦をしたいと思い、会社経営や組織づくり、事業づくりに関わるようになりました。その実現のためには、 「あたりまえを打ち壊し、変化しようとする社会的ムーブメント」 を起こす必要があります。だからこそ、会社や社会の変化に向き合い、自分たちの行く末を定めて、組織としての変化をつくっていくことは今の自分にとって「アジャイル開発」の本丸です。
そしてその中で実際に取り組んでいくことは、スケーリングフレームワークになるかもしれないし、大規模モブプログラミングになるかもしれないし、あるいは新しい取り組みとして名前をつけるかもしれません。でも、それはまた別のお話。
ホロラボアジャイルソフトウェア開発宣言
最後に、せっかくなのでホロラボアジャイルソフトウェア開発宣言を書いてみました。
私たちは、会社経営やソフトウェア開発の実践あるいは実践を手助けする活動を通じて、 よりよい方法を見つけ出そうとしている。 この活動を通して、私たちは以下の価値に至った。
技術やデバイスよりも社会実装を、 個の力よりも個の力が結集したチーム力を、 プロジェクトの完了よりも顧客の成功を、 過去の成功体験も新たな世界を創造することを、
価値とする。すなわち、左記のことがらに価値があることを認めながらも、私たちは右記のことがらにより価値をおく。
ここで重要なのは、アジャイルソフトウェア開発宣言と同じく、「左記のことがらに価値があることを認めながらも、私たちは右記のことがらにより価値をおく」という点です。あくまで価値観の比較であって、左記のことがらも大切にしていきたいです。
また「よりよい方法を見つけ出そうとしている」という部分も、アジャイルソフトウェア開発宣言で好きな文章です。アジャイル開発も私たちの取り組みも、決めたらそれで終わりではありません。現在進行形で探索し続ける必要があります。
最後に
もし、この環境で一緒に働くこと、あるいは会社や取り組み自体にご興味を持ってくださった方は、ぜひ採用ページをご覧ください。
また、「ちょっと話を聞いてみたい」「アジャイル開発のリアルをもっと知りたい」「とりあえず雑談したい」という方は、気軽に雑談できる場もご用意しています。
これからも自分たちの取り組みを、ブログやコミュニティなど様々な場面で発信していきます。ご興味を持たれた方は、ぜひお気軽にお声がけください。