こんにちは。ホロラボの執行役員 / 新規事業開発部長 久保山です。 本日はホロラボ Advent Calendar 2024の13日目。
前回に引き続き、 「空間コンピューティングとDX」 という壮大なテーマについて考えていることを書く、というチャレンジ中です。
「空間コンピューティングとDX」
- ホロラボはどんな業界のどんな位置にいる会社? [12/6公開]
- 空間コンピューティングをDXに活用するには? [12/13公開。本記事]
- 今後の新規事業をどう考えてどう取り組む? [12/19公開予定]
この連載の背景である「これまでホロラボはどんなところで、どういう仕事をしてきたのか」、「今、何を問われているのか」については前回の記事をご参照ください(「筆者の簡単な自己紹介」や「空間コンピューティング、DXという言葉をどういう意味で使うつもりか」も書いてあります)。
本日はいよいよ「空間コンピューティングをDXに活用するには?」について、私の経験から仮説を描きたいと思います。一言にDXと言っても、業種や職種、規模や内容など多岐に渡るため、この記事では「空間コンピューティングを活用したDXにはどんな期待があるのか」、「実際に企画する場合に何を考える必要があるのか」についてまとめます。 具体的なホロラボの事例については、当ブログの他の記事、弊社カンファレンスのアーカイブやPR TIMESの記事などにありますので、そちらを参照ください。
この記事をきっかけに空間コンピューティングやDXについてディスカッションができると幸いです。
空間コンピューティングのDXへの期待
空間コンピューティングの特徴に、「フィジカル(身体的/物理的)空間にデータを紐づけて利用することができる」 というものがあります。例えば、「特定の場所に行くと、その場所にまつわる映像が流れる」とか、「ある機械を見ると、その機械のマニュアルが表示される」などです。この「空間とデータの紐付け」が「新しい業務フローが実現できて生産性が上がる」、「新しい体験を通じてお客様に価値を感じてもらう」などの実現に寄与できる可能性があります。
特に、現場作業を伴う「ノンデスクワークのDX」への期待があります。 現在、DXに寄与する様々なソリューションは、デスクワークの効率化が圧倒的に数が多いです。一方で多くの企業にとって、事業のコアとなる業務は現場業務です。その現場業務を大幅に改善したり、これまでとは異なる業務フローを構築したりすることで生産性を向上させることが、労働人口が減っている現在、緊急かつ重要な課題になっています。
労働人口減少に対してはロボティクスなどの技術開発も進んでいます。ただ、フィジカル空間はそのスペースに限りがあるため、機械が設置できなかったり、通路を通らなかったりとその全てにロボットを適用することは叶いません。コスト面も含め、人が担わなければならない部分はまだまだ沢山あります。そこに空間コンピューティング技術を活用することで、人の作業が大幅に軽減されたり、経験の浅い人でも成果が出せるようになったりすることが期待されています。
3Dデータが得意なこと
空間コンピューティングで利用されるデータの一つとして「3Dデータ」があります。ホロラボは3Dデータ活用のご相談をよくいただくので、「3Dデータ利用が向いていることは何か」を整理しておきたいと思います。まず、数年前から現在まで、XR技術のユースケースは、ゲームやエンターテイメントを除くと、以下の3つが主流です。
- プレゼンテーション
- トレーニング
- ガイド
なぜ、これらのユースケースが主流なのかを私なりに解釈すると、3Dデータは以下の3つが得意だからだと考えています。
- 「立体物」の認識・理解を支援・促進する
- 「立体的な動き」の認識・理解を支援・促進する
- 「空間」の認識・理解を支援・促進する
例えば、2D図面に比べて3Dモデルであれば図面を読むことができない人でも、どんな形や大きさの立体物なのかを直感的に知ることができます。それが建物であれば、その建物にはどんな広さ・形をした部屋があって、どこに何があるのかが分かり易いでしょう。また、紙に書かれた手順書に比べて3Dアニメーションであれば、どのような手順で機械を操作すればいいのか直感的に分かりますし、手を回したり後ろに移動したりするような作業であっても視点を変えながら確認することも可能です。
これらの”わかりやすさ”は、背景となる知識や経験の異なる人の間で特に効果を発揮します。
- 図面を読める人/読めない人
- その操作をやったことある人/やったことがない人
- その場所をよく知っている人/知らない人
空間コンピューティングをDX活用しようとすると、大体「3Dデータを使う」という選択肢が入っていますので、上記の特徴を考えながら、本当に3Dデータ活用が適しているかを考えるようにしています。
運用・メンテナンスのしやすさを考える
DXを進めるには「本当に投資対効果があるのか?」という問いを考える必要があります。特に新しい技術の活用は実現性も含めて未知数な部分も少なくないため、過剰なコストをかける訳にはいきません。そこで、小さな技術検証からスタートするのですが、検証コストだけを考えて進めると、その後の運用・メンテナンスコストの検討が後回しになり、検証が終わる頃に「運用・メンテナンス費が予算と合わない」となってお蔵入り・・・なんてことも少なくありません。
運用・メンテナンスを試算するためのPoCから始められれば良いのですが、最近は以前に比べて「早く現場で活用できる状態にしたい」と短期間で成果を求められる傾向が強くなっているように感じます。正直、検証前の企画段階で正確に運用・メンテナンス費用を見積もることは不可能です。
そのため、企画段階では、将来の理想的な未来は描きつつも、以下の2つの点を検討します。
1.(改善したい業務フローや提供したい体験が一通り回る)本当の意味での最低限の機能はどれか?
2.利用するデータをどこまで作り込む必要があるか?
その企画がどこまで成果が出て、どれくらい価値を生むかは最終的にはやってみないと分かりません。ただ、そこにかけるコストが過剰にならないため工夫は企画段階でできます。
1.本当の意味での最低限の機能はどれか?
空間コンピューティングに限った話ではなく、全てのシステム開発に通じることですが、機能は作れば作るほど、開発コストもその後のメンテナンスコストも上がっていきます。後から必要のないと分かった機能を減らすのもコストがかかりますし、機能が増えてシステムの複雑さが増すほど、その後の機能追加のコストが高くなります。成果がどこまで出るかやってみないと分からない以上、検証できる最低限の機能を考え、小さく始めて検証する必要があります。作り始める前に、この検討にちゃんと時間をかけることが大切です。
2.利用するデータをどこまで作り込む必要があるか?
運用・メンテナンスの費用には、データの追加・更新の影響がかなり大きなウェイトを占めることが多いです。例として、3Dデータをイメージするとわかりやすいと思います。
詳細な3Dデータを作ろうとするほど、それを作成するにはコストがかかります。例えば、何か機械を表現するのに、大きさがわかる程度の四角い箱を作るのか、機械の形状が判別できるくらいで作るのか、部品一つ一つを判別できるくらい作るのか等です。
より詳細なデータを作るほどデータ容量が大きく重たくなりますので、それらを表示したり、操作したりするためのデバイスはより高性能なものが必要になります。3Dデータの詳細度が高い場合、普段業務で使っているPCでは表示ができず、専用の高性能PCを準備しないといけないかもしれません。
作成した3Dデータを修正する際は、詳細であるほど修正にコストがかかりますし、専門的な知識が必要になります。結果、データの更新のしやすさは、詳細度が高いほど難しく、詳細度が低いほど相対的に簡単になります。そのため3Dデータの作成・管理を内製化をしたい場合、詳細度が高いほど難しくなります。
空間コンピューティングの活用を企画する際、SF映画のような高精細でリッチな体験を描きたくなる気持ちはとても共感できますし、そんなワクワクする世界を作りたいとも思っています。ただ、DXの実現には「運用」は欠かせません。そして、その運用は「いつかできるようになる」ではなく「実装後に運用できるか」という視点で考える必要があります。まずは小さく運用を始められるように、最低限必要なデータはどんなデータなのかを企画段階で考えることが必要です。
「空間の範囲」と「データの紐付け単位」という視点
ここから更に、空間にデータを紐づけるという空間コンピューティングの特徴をどう活かすかを考えていきます。
空間コンピューティング活用を考える手かがりとして、次の2つの切り口を整理しておくと、過剰投資にならずに企画・検証がしやすくなると考えています。それは 「空間の範囲」と「データの紐付け単位」 です。
(1)空間の範囲
まず、 「改善したい業務、作りたい体験は、どんなフィジカル空間の範囲で実施・管理されているか」 を考えます。部屋の中なのか、フロアなのか、建物なのか、街なのか、国なのか・・・です。空間コンピューティングを活用するには、適切な空間の範囲があります。
地図をイメージしてもらうと考えやすいと思います。隣町のコンビニに行くのに、日本地図を用意してもたどり着けません。一方、全国の配送網を考えるのに、街の地図があっても把握できません。広すぎず、狭すぎず、適切な空間の範囲を設定します。
この時、「後々のことを考えて最大まで広くしておこう」とか「広い範囲も狭い範囲も一つでできるように全部」と考えたくなりますが、この考え方は要注意です。先ほど述べたように、データを作り込むほど作成コストも運用コストも上がっていきます。まずはDXしたい業務や体験に最低限必要な空間の範囲を絞りましょう。
(2)データの紐付け単位
次に 「業務・体験に必要なデータは、空間内のどの単位で紐づける必要があるか」 を考えます。
例えば工場の場合。「この部屋で最近起こったヒヤリハット事例」というデータの場合は、紐付ける空間の単位は部屋で良いかもしれません。「特定の機械のマニュアルや注意事項」というデータの場合は、設置されている機械単位で情報の紐付けが必要そうです。「機械に使われている部品のスペア品の在庫」という情報の場合は、もしかしたら機械の部品単位で情報が紐づくことを求められるかもしれませんし、機械単位で紐づいていれば十分かもしれません。
このように、活用したいデータはどの単位で空間に紐づけておくと有用かを整理しておきます。この時、より細かい単位で紐付けようとすれば、その分紐付けの手間がかかります。ここでも「後々のことを考えて、ともかく細かく管理しよう」としてしまうと、紐付けの準備のコストも追加・更新コストもかかるので要注意です。
空間コンピューティングの特徴を活かしたDXの実現には、これら「空間の範囲」と「データの紐付け単位」という切り口で検討・整理することが手がかりになると、様々なお客様とのやりとりで辿り着きました。
空間コンピューティングのDX活用を考える手がかり
この記事のまとめです。
- 「フィジカル空間にデータを紐づけて利用することができる」ことがDXに寄与する可能性がある。特に現場作業が伴う「ノンデスクワークのDX」への期待がある
- 3Dデータは、「立体物」、「立体的な動き」、「空間」の認識・理解を支援・促進するのが得意。特に背景となる知識や経験の異なる人の間で効果を発揮する
- DX実現には実装後の運用も考える必要がある。ただし企画段階から正確な運用見積は不可能
- 新しい技術の活用の成果は、最終的にはやってみないと分からない
- 過剰にコストをかけずに検証するための工夫は企画段階でできる
- 本当に必要最低限な機能は何か?
- データをどこまで作り込む必要があるか?
- 業務・体験が実施・管理される空間の範囲はどれくらいか?
- データの空間への紐付けはどの単位で必要か?
そもそもDX自体がそんなに簡単な話ではない中で、さらに空間コンピューティングという新しい技術を活用するとなると、一人や一社の力だけでは足りません。改善したい業務や作りたい体験については、当事者である皆様が詳しいでしょうし、空間コンピューティングなどの技術については弊社が詳しい。それらを掛け合わせ、議論し、この記事で提示したような視点を整理することで、過剰なコストをかけず、運用を意識した企画・検証ができると考えています。
ホロラボでは作るものが決まっている開発案件だけではなく、「何をするか/それをどう実現するか」を考えるような企画フェーズからの伴奏支援も行っております。考えていること、悩んでいることなどがございましたら、ホロラボのお問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせ・ご相談ください。 (本記事を見たと一言添えてあれば初回面談に私もぜひ同席させていただきたいなと思います)
また、ホロラボでは現在、「エンタープライズセールス組織」を立ち上げる仲間を募集しています。空間コンピューティングという新しい技術を活用して、大手企業のお客様とともに新しい価値づくりに挑戦しませんか?
次は
次回で私の記事は最終回です。最後は「これからどのように新規事業を企画・検証していくつもりなのか」について書き出しておこうと思います。私の記事の続きはまた来週に。
明日は及部さんによる「社員65人規模の会社におけるアジャイル開発のリアル」です。