こんにちは。ホロラボの執行役員 / 新規事業開発部長 久保山です。
本日はホロラボ Advent Calendar 2024の19日目です。
いよいよ 「空間コンピューティングとDX」 という壮大なテーマについて書くチャレンジも最後の記事です。
「空間コンピューティングとDX」
最初の記事では、「空間コンピューティングとDX」というテーマで記事を書き始めた背景を。前回は「空間コンピューティングによるDXの期待と現実」と題して、DXに空間コンピューティングを活用するときに何を考えるかについて書きました。
最終回の本日は「これからどのように新規事業を企画・検証していくつもりなのか」について書き出しておこうと思います。
非連続な成長を目指す新規事業
ホロラボの主力事業は、名だたる大企業のお客様とともに、XR・3Dデータが関わるシステム開発を行うこと。この8年で会社はだんだんと成長をしてきました。 ただ、XRへの期待がとても大きく盛り上がっていた創業期に描いた成長をしているかというと、そうとは言い切れません。多くの人が当時想像していたくらいに現在XRが普及しているかというと、普及はまだまだ限定的です。
ホロラボは自社プロダクトを持っていますが、あくまでも中心は受託開発。お客様が試したいこと、作りたいもに対して技術の専門家として寄り添い、多くの取り組みを行なってきました。業界も製造業、建設業、通信、インフラ、医療など、多岐に渡り、特にどこかの領域に絞ることもしませんでした。
経営上、「選択と集中をして事業を伸ばす」ということがセオリーですが、コロナ禍による生活の変化や当初期待されているほど普及しないXRなどの社会情勢を振り返ると、業界等を絞ったり特定のプロダクトに集中したりしなかったことが、結果的にホロラボを生かしてきたと思っています。
ただ、今後もその戦略のままでいいのか。ミッションである「フィジカルとデジタルを繋げ、新たな世界を創造する」ことを実現できるのか言われると、自信を持ってYesとは答えられません。本当に新しい世界を創造するには、それを担える事業規模や専門技術を持った多くの仲間が必要です。そのために今期から、新規事業開発の役割を担うチームを組成し、非連続な成長を目指していくことにしました。
今できないことも数年後にはできる可能性
なぜ今、新規事業開発に投資することにしたのか。その一つは空間コンピューティングを取り巻く様々な技術の変化です。 エンジニア目線だと細かな技術の分類があるとは思いますが、非エンジニアな私でも顕著に感じる3つの変化を書き出します。
デバイスの性能
年々、PCはどんどん性能が上がっていますし、スマートフォンやタブレットも性能が上がっています。同じようにスマートグラスやヘッドマウントディスプレイもデバイスの性能が上がっています。数年前は視野角も狭く、複数の3Dデータを表示するのはとても大変でした。その後、デバイスの性能は著しく向上し、かなり高精細なデータを表示できたり、ビデオシースルー方式で視野角もまったく気にならないデバイスも増えました。まだ屋外での利用やバッテリーの持ちなど、業務上の課題になるような要素もありますが、これから5年、10年の間にさらにデバイスが進化していくことが予想されます。そしてまさに今、各社から新しいデバイスが次々と発売されています。
3Dデータ作成技術
数年前はXR技術を試してみたくても、そもそも表示する3次元データが手元にないことが大半でした。その後、製造業では3D CADでの設計が増え、建設業ではBIM / CIMなどの国を挙げての3Dデータの推進が行われています。また、レーザースキャンやフォトグラメトリ、Gaussian Splattingなどによって点群や3Dモデルを作成することも増えています。LiDARセンサー付きのiPhoneなどを利用すれば、簡単に3Dデータを作成できるようになりました。AIを利用した3Dデータ作成も様々なところで研究開発されています。まだ必要な3Dデータが足りなかったり、高精細なデータを作るにはコストがかったりするなどの課題もありますが、これから5年、10年の間に3Dデータの作成技術は向上していくことが予想されます。今以上にたくさんの3Dデータが、今よりも簡単に作成されることになるでしょう。
通信
3Dデータはデータ容量が重くなりがちで、データの送受信には通信環境が強く影響します。数年前は、業務を行う場所によっては通信環境がなく、デバイスにあらかじめデータを入れて持っていかないと現地でデータを使うことができませんでした。それが5Gの普及とともに、多くのお客様がスマートフォンのテザリングを使って3Dデータを現地でダウンロードしたり、ストリーミング表示をしたりする光景をよく見るようになりました。それでも場所によっては通信環境が弱かったり、より高精細になっていく3Dデータの送受信には不十分だったりと課題はありますが、これからも通信環境やシステムが進化していくことは間違いないでしょう。今以上に大容量なデータの送受信が遅延なくできるようになるはずです。
このように、ここ数年の間だけでも取り巻く技術の向上により、空間コンピューティングを利用する環境が変化してきています。それら技術の変化を体感するとともに、ホロラボにはこれまでの様々な取り組みにより「何が技術的に難しいか」、「何が運用に乗せづらいか」の知見が蓄積されてきました。
新規事業開発は投資を始めれば半年や1年で簡単に花開くような性質のものではありません。数年がかりになることを覚悟しつつ、1日でも早く新たな事業の柱を作るために全力で走るものです。だからこそ、「今は何が可能なのかという知見」と「数年後に何ができるようになりそうかの予測」を持っている今が、新規事業開発に取り組むタイミングだと考えています。
AIに向き合い、AI時代に備える
生成AIブームにより、お客様からも「AIを使ったら◯◯ができるのでは?」という相談が増えました。また、最近はどこもかしこも「AIエージェント」の話題ばかりです。空間コンピューティングでもAIでも、新しい技術を使えば手放しで問題が解決し、新しい価値が生まれるかというとそんなことはありません。技術自体が直接価値を生むというよりも「新しい技術を事業や業務にチューニングし、活用できる形した誰か」が価値を生んでいきます。
どんな技術もチューニングされなければ使いものになりません。そして、そのチューニングが大変だったり時間がかかったりします。それを見て「この技術は使えない」と見向きもしなくなる人がいます。そうではなく「この技術は ”この用途” では ”今は” 使えない」だけかもしれません。AIには多くの人が大きな可能性を感じており巨額な資金が投資され、短期間の間にどんどん進化していっています。そして、空間コンピューティングにもBig Tech各社が投資し、新しいデバイスが毎年発売されています。これら技術はいつか誰かが社会に適応させ、普及していくでしょう。それが早いか遅いかの違いくらいだと思います。そして、空間コンピューティングとAIが掛け合わさることでスピードが上がる可能性があります。
今、AIに取り組まないという選択肢はありません。ホロラボは新規事業開発の一環として、「空間コンピューティング×AI」の可能性を模索し、それらを社会にチューニングすることに取り組んでいきます。 新規事業開発部としては、すべての活動をAIに限定するわけではなく、他の可能性も合わせて模索をします。ただ、どんなテーマにも将来的にAIが関係してくるという前提で、業務フローやデータなどを分析・検討していくつもりです。また、既存事業を担当している中にもAIに取り組んでいるチームがありますので、お気軽にご相談ください。
私たちは”事業”をつくる
最後に、改めて新規事業開発部の役割を確認しておきます。
「新規事業開発」という言葉を聞くと、多くの人は「プロダクトを開発する」というイメージが湧くのではないでしょうか。私たちはソフトウェア開発を行っていますので「ソフトウェアプロダクトを作るのかな」と思いがちですし、社内でもそう思っている人は少なくないかもしれません。ただ、私たちがつくるのは「新しい柱となる事業づくり」です。私たちは「プロダクトは事業づくりの手段の1つ」だと捉え、ソフトウェアを作らない可能性は低いかもしれませんが、そこにとどまらない視野で事業づくりに取り組んでいきます。
日本におけるSaaSの普及率は米国に比べてまだ低く、まだ日本においてはSaaS事業の余白は残っていると思われます。ただ、単独のソフトウェアだけで数百億円規模の事業ができているケースは非常に少なく、マルチプロダクトやプロフェッショナルサービスとの組み合わせが主流です。これから大きな事業を作ることを目指すのであれば、単一ソフトウェアプロダクトでの展開だけを考えるのではなく、コンパウンド戦略のように最初から複数のプロダクト・サービスの展開を描きながら、最初のプロダクト・サービスを作っていく必要があると考えています。私は10年前に起業した経験があるのですが、特にソフトウェアプロダクトを主とする事業者にとっては、投資家からの期待も実現の難易度もどちらもかなり高くなっていると感じます。
なので、空間コンピューティングやAIを活用したソフトウェアをつくるとしても、単にそれを売るだけとは考えない。例えば、「それらを活用した新しいオフィスを提供できないか」とか「それらを活用した新しい店舗を運営できないか」とか「それらを活用した新しい倉庫や工場を作れないか」などまで発想を広げています。
そして、これら事業の種を見つけ、磨き、価値あるものに仕上げ、技術を社会にチューニングしていくには、目の前のお客様にしっかり向き合うことが最重要だと考えています。私たちがただただ色んな世界を夢想するだけでは何も出来上がりません。いきなりプロダクトやサービスを作り始めるのではなく、目の前のお客様の成果にこだわり、向き合っていく中で新しい事業が生まれていくと信じています。
ホロラボでは現在、1人目の「エンタープライズセールス」を募集しています。まさに今、新しい挑戦が始まったばかり。たくさんの困難が待ち受けていると思いますが、何よりも刺激的で、成長ができ、本当に新しい世界を創れるかもしれない。そんなチャレンジを共にする仲間を募集中です。
終わりに
今回の Advent Calendarにおける私の出番はこれで終わりです。 「空間コンピューティングとDX」という大テーマを掲げてホロラボの過去、現在、未来について記事を書いてみましたがいかがでしたでしょうか。
明日は及部さんによる「DXからAX(AIトランスフォーメーション)へ、製造業や建設業の現場で起きていること」です。