ブログ@HoloLabInc

株式会社ホロラボのブログです

組織開発のラボとしてのホロラボ③

ホロラボ Advent Calendar 2024の22日目は、昨日に引き続き業務委託の人事としてホロラボに関わっているみやけんです。

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組織開発のラボとしてのホロラボ

前回はホロラボの強みについてまとめてみました。

少し振り返りをします。

強みとは、「ある環境において目的の達成をするために利する特性」でした。

環境と目的が以下です。

  • 環境:XR業界の立ち上がりでPoC案件が大量にあった
  • 目的:XR業界のエンジニアが楽しく開発できる場づくり

環境と目的が矛盾するようですが、エンジニアにとっての場づくりが環境とマッチしていた、ということそのものがホロラボの強みだったのでは?ないかととらえたのが前回の大まかなまとめです。

しかし、環境や目的が変われば、強みは変わってくるわけです。 前回の終わりに少しお話した通り、ホロラボは上場を目指し、資金調達をしています。

上場の最大の利点は「大きな資金調達」であり、それに見合う「大きな成長をし続ける会社」であることが求められます。

今回は、ホロラボの目的を「大きな成長をし続ける会社」として見ていくと、今までの強みがどう見えてくるのか?を環境の変化とともに対策を見ていきましょう。

視点1:目的の再設定

そもそもホロラボは何のために上場するのでしょうか?

上場はもちろんゴールではありません。あくまでも事業成長のための資金調達という手段です。

ですから、ゴール設定が必要です。

そのゴール達成のための通過点や手段としてどう上場を位置づけるのかというマイルストーン設計が求められます。

そこで、「いったいホロラボはどんな会社になりたいのか?」という議論が何度もされました。

以前から続けていた議論ではありますが、最も活発になったのがここ1年ぐらいだと思います。

償還期限が近づいたこともありますし、上場を目指してJoinした経営メンバーの意志なども働いたと私は見ています。また、以下の2、3の視点も関わっています。

視点2: 外部環境の変化・状況

はっきりと分かれ目があるわけではありませんが、ここ2~3年でXR業界での受託案件がPoCから徐々に変わってきています。

  • PoC案件は引き続きあるが減っている
  • 大規模なシステム開発などの依頼も増えてきた

これは恐らくXR業界が立ち上がった当初、クライアント企業が研究投資として行ってきたものがひと段落し、本格的に投資し続ける企業と、そうではない企業が分かれてきたのだと思われます。

そして、このまま単発やPoC案件だけを受託していても、大きな成長は見込めないことが見えてきました。(以下の内部環境にも関わります。)

視点3:内部環境の変化・状況

ホロラボの内部でも環境の変化がありました。

  1. 社員数の増加
    • 社員の人数は私がJoinした2020年の30名から倍の2024年には60名以上になっています。それによって内部での人・チーム・組織に関する問題も多様化しましたし、取締役2名で組織や個人の状態を把握しきれなくなってきました。少数ではありますが、規律を守らない社員、「ホロラボらしい行動・態度」ではない社員も出てきました。逆にもっと奨励したい行動・態度も目立ってきました。
  2. 組織内の差
    • 売上・利益が大きい部門とそうでない部門、チームや個人の能力、ケイパビリティにも差が出てきました。管理職がいない状態では、取締役2名の目が届くところはケアできますが、それ以外は野放しに近い状態だったかもしれません。(もちろん言われなくても自らリーダー的、マネジャー的存在になっていく人はいました。そういった方々の一部が今の経営陣や管理職を担っていると思います。)
  3. 受託以外の事業が成長していない
    • 現在でもそうですが、大きく売上・利益を伸ばしている受託以外の事業はありません。

これらの変化や状況が意味するものは?経営陣は何を考え、何を話したのか?

これらの変化や状況は何を意味していたのでしょうか?

端的に言えば、目的と環境が変わり、強みの一部が強みではなくなってきたのではないかと思います。

他にも、問題になりそうだけれども放っておいたことが、環境の変化や目的の変化によって如実に問題として認識され始めたとも言えるのではないでしょうか。

具体的には、、、

  • このままで上場できるの?
  • いや、そもそも上場はゴールじゃないでしょ?どんな会社になりたいの?
  • 今のままでいいの?

こういった声が挙がり、経営陣にも危機感が生まれましたし、むしろ取締役以外のメンバーから「このままでいいのか?」という議論が持ち込まれたと私は認識しています。

取締役はいい意味で突き上げられる形で、改めてホロラボのあり方、未来を問われる形となりました。(この詳細はどこかでお話しする機会があるかもしれませんが、取締役2人にとってはなかなかハードな場だったと思います。)

結果として何をしたのか?

侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論、議論するメンバーも変化しながら、以下のようなことが2022年頃から順次行われていきました。

  1. 執行役員の任命
  2. GL(グループリード)やTL(チームリードの)任命(執行役員未満の役職者の設定)
  3. MISSION、VALUEの設定
  4. 人事考課制度の開始

1~2はこれまで実質的なフラットに階層性が入ったので大きな変化です。

3のMISSION、VALUEに関しては取締役以外での初の経営合宿を何度か経て、最終的に2024年12月現在の経営メンバーで策定をしました。

それまでにも「目指すもの」の言語化などをグループリード含めてしましたが、メンバーの再編成などを経て、新たなMISSION、VALUEが2024年9月の経営合宿で決まりました。

また、昇給も基準が曖昧だったため、人事考課制度も入れました。

なぜそのような決断をしたのか?

(これは私の私見が大いに入りますので、経営陣としての統一見解ではない可能性もありますのであしからず。)

  1. 階層性を入れた理由
    • 放っておいても事業も組織も成長しない。中間的なリーダーシップやマネジメントと経営が一体となって事業を創造しドライブし、組織を成長させていく必要がある
    • 人間としてはみな対等だが、組織にはある程度の階層性がないと目的に対して組織が機能しづらい
  2. MISSION、VALUEの設定をした理由
    • 明確な目的、規範がないと組織がまとまらない、どこに向かっているかわからない
    • 上場はゴールではなく、その後も成長を続けるのであれば、改めて強力な目標を再設定する必要がある
    • 「ホロラボが目指すあるべき行動・態度」などを明確に示し、企業文化を醸成してく必要がある
  3. 人事考課制度の導入の理由
    • 取締役2人では組織・人が見切れなくなってきた
    • 新しいMISSION、VALUEや事業目標とより紐づいた制度が必要
    • 明確な基準をもってクリアな判断をしなければならない(結果として成果、パフォーマンス、VALUE体現の3つによる総合評価となった)

今までは受託をとにかく受けて、業界内での経験を持つ人や、面白い技術を持つ人材を採用してきました。点と点がつながり、新しい技術につながり、新しい受託案件も取れました。自由な組織でどんどん受託すれば、それはXR業界の隆盛や、大規模なシステム案件の受託も相まって、ある程度の売上になっていましたし、稼ぎ頭の部門がしっかりと利益を還元してくれました。

しかし、目的の再設定や、再設定の一因となった環境の変化も踏まえて、強く現状否定をする必要があったのです。そして、2022年前後から徐々に組織や人事を変化させていきました。

MISSION、VALUEが設定されたのは2024年9月、人事考課制度がスタートしたのは2024年12月。変革は始まったばかりです。

このままでいいのか?これまではダメだったのか?

最後に、ホロラボは今後どう変わるべきなのでしょうか?

強みは、「ある環境において目的の達成をするために利する特性」でした。

これまでの全てはダメなのか?

何がMISSION達成に対する強みなのか?新たに身につけなければならないことは何か?

このままではMISSIONを達成できない弱み・課題はなにか?

これを環境と目的に合わせて考え、実践し続けなければなりません。

ホロラボの強みは経営陣の中でも意見が分かれているのではないでしょうか。

どう考えるべきか、どうするべきか、どう話し合うべきか、私にも答えはありません。

しかし、この約2年間がそうであったように、目指すべき状態(MISSION)と問いに誠実に向き合えばきっと答えは出てくるのだと信じています。

さいごに

人事シリーズを3回に渡って担当させていただきましたが、正直なところ、ほんの一部、そしてある一つの側面しかお話できていないと思います。

社員を含むステークホルダーや様々な方に誤解を与える表現もありそうです。

もっともっと色々な個別の事情、ダイナミックで複雑なシステムの中で組織や人事は動いてきたし、もっといい文章を書くべきなのですが、私の能力ではまとめきれませんでした。

機会があれば、もっと面白く、明確に、分かりやすく書いてみたいと思いつつ、いったん筆を置きます。

読んでいただいた方、ありがとうございました。

組織開発のラボとしてのホロラボ②

ホロラボ Advent Calendar 2024の21日目、業務委託の人事としてホロラボに関わっているみやけんです。

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組織開発のラボとしてのホロラボ

ホロラボの強みとは何なのか?と壮大に問いかけて終わってしまったのが前回です。

さて、何をどう書くか?と考えているのですが、まずは強みを定義してみましょう。

強みとは

まず、強みは相対的なものです。

「水を得た魚」という言葉がある通り、魚は水生生物であり、陸では生きていけません。その逆もまたしかり。猫は水の中では生きていけません。

どういった環境で、何を目指しているか?によって強みは変わってくるわけです。

そのため、強みを「ある環境において目的の達成をするために利する特性」としましょう。

事業環境

まず、環境としては、XR市場が立ち上がり始め、PoC案件が大量にあったが2017年度ごろです。

それに対して、当時30~40万円ほどしたMicrosoft社製HoloLensを購入し独自に開発していたようなエンジニアが集まったのがホロラボです。

目的

では、何を目指していたのか。

誤解を恐れずに言えば、初期Verのホロラボ「XR業界のエンジニアが楽しく開発できる場づくり」という目的感が強かったように思います。

「エンジニアにとって天国のような会社」というのは、現役員メンバーの言葉であり、実際に似たような発言をするエンジニアもいました。

詳細は私の前回のブログをご覧いただければと思いますが、上下関係や目標数値はなく、コアタイムのないスーパーフレックスタイム制で、リモートワーク。こういった環境がそのような認識を作ったのだと私は考えています。

そして、こういった環境があるからこそ、エンジニアは伸び伸びとストレス少なく開発に打ち込めたのではないでしょうか。

そして、そのような場を作ることが事業成長につながると経営メンバーは信じていたのだと思います。

幅広いドメインと経験の蓄積

また、XR周辺のBtoB案件であれば、幅広く受注し、大量の経験を積んでいます。何かしらのXR周辺の経験があればエンジニアを採用していました。

そのため、現在でも通信、建築、製造業、官公庁など幅広い顧客がいます。ドメインやサービスを絞っていませんから、来るもの拒まずでどんどん経験を蓄積していきました。それがさらにホロラボのケイパビリティを広げていき、またそれが新たな案件の獲得にもつながっていきました。

2017年か18年ごろの取締役とのやり取りでホロラボの事業は「宝くじ」のようなものだとも話していました。

それは、こういう意味です。

様々なドメイン・業界の顧客がいて、様々な分野の技術や、その技術を保有するエンジニアがいて、それらがどこでつながるか分からない。でも、やっていくうちにどこかでつながる。」

Steve JobsのConnecting Dotsの話そのものですね。

(画像は取締役と話しながら私が描いたmiroのメモ書き。)

実際に、今現在でもこれまでのやってきたドメインと技術の蓄積によって新しいサービスのアイディアが生まれています。

一般的なスタートアップは一つの業界やドメインの中でプロダクトを決め、そこに特化して、一点突破で成長を目指します。しかし、ホロラボは受託を中心に幅広い経験を積んでいったわけす。

まとめ

冗長な文章になっていて申し訳ございませんが、少しまとめてみましょう。

強みとは、「ある環境において目的の達成をするために利する特性」でした。

環境と目的が以下です。

  • 環境:XR業界の立ち上がりでPoC案件が大量にあった
  • 目的:XR業界のエンジニアが楽しく開発できる場づくり

一見すると、環境と目的が矛盾するように見えます。

会社なんだから、事業の成長、つまり売上と利益の最大化を目指すのが目的じゃないのか?と。そうしないと環境と目的が合致しないじゃないか?と。

しかし、この一見矛盾するメンバーが伸び伸びと仕事をしてきたというサイクルが隠されていたのではないかと私は考えています。そして、初期Ver.の経営メンバーは、この場づくりが事業の成長につながると信じていたのではないかと。

これはなかなか数字やエヴィデンスで示しにくいものですが、メンバーやエンジニアにとっていい環境が、いい仕事を生み、それがPoC案件が大量にあったという環境とマッチし、売上が伸び続けたのだと考えています。 (正直、そんなにきれいにまとまるわけではなく、細かい問題は沢山ありましたし、ハードな内情もあったことは確かです。ただ、大まかにまとめるとこういうことかなと認識しています。)

これからのホロラボ

さて、一方でホロラボは上場を目指す会社です。しかも資金調達をしています。

つまり少なくとも資金提供者に対しては「高い成長をし続けるぞ!」という契約をしているわけですが、そういった観点で見てみると、今度は強みが弱みに見えてきたり、また、組織の中の問題も見えてきたりします。上場、成長という観点が強くなってきたのが、ここ1~2年というところでしょうか。

ここまで組織開発という話を全然していませんが、やっとそこに踏み込んで次回に続けていきたいと思います。

DXからAX(AIトランスフォーメーション)へ、製造業や建設業の現場で起きていること

ホロラボ Advent Calendar 2024の20日目の記事です。

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こんにちは、執行役員/新規事業開発部Group Leadの及部です。

今回は、「DXからAX(AIトランスフォーメーション)へ、製造業や建設業の現場で起きていること」をテーマにお話します。

XRの会社が生成AI?

ホロラボは、これまでXRや空間コンピューティング技術を強みに事業展開してきました。そのため、顧客は製造業や建設業など「現場」を伴う業種が多く、私自身も特にその領域でデジタルトランスフォーメーション(DX)支援に取り組んできました。

2023年はChatGPTをはじめとする生成AIが注目され、「生成AI元年」とも呼ばれる年でした。私たちもその流れの中で、自然と業務でも生成AIに取り組むようになりました。XRとAIは一見かけ離れた技術領域のように感じられるのかもしれませんが、「ホロラボさんもAIやるんですね!」と驚かれることが何度かありました。

しかし、私たちはAIを技術要素の1つではなく、あらゆる技術を支える基盤のような存在だと捉えています。生成AIは日々進化し、マルチモーダル対応や空間情報解析など活用領域がどんどん広がっています。たとえば、ARグラスから読み取った空間情報を生成AIで解析してリアルタイムに視界に重ね合わせたり、グラスをかけたままハンズフリーで音声入力を使って生成AIによる業務支援を受けるといったシナリオも、すぐそこの未来まで来ています。

とはいえ、今回の記事では壮大な未来像を語るつもりはありません。「DX」や「AX」というキャッチーなキーワードをタイトルに入れつつも、実際の現場で泥臭く問題解決に向き合う中で、なぜ自然と生成AI活用へと向かっていったのか、そのリアリティをお伝えしたいと考えています。

なお、Hololab Tech Showcase 2024でも、こうしたテーマに関連する講演を行いました。よろしければこちらもご覧ください。

「2024年問題」に本気で取り組む! 言葉だけじゃないDXを目指すAI活用の現在地 - 生成AIからAIエージェントへ -

製造業や建設業の現場で起きていること

これまでの取り組みをふりかえり、製造業や建設業の現場で起きている問題と、それに対するDXという祈りに近い期待を整理すると、以下のような構図が見えてきます。

少子高齢化や働き方改革などのさまざまな社会的要因により、現場の労働力不足は深刻化しています。ベテランの数が減っていく中で、業務を維持・発展させるには新卒・中途・外国人労働者といった新戦力人材を確保せざるを得ません。しかし、人材確保がゴールではありません。新戦力人材が短時間で独り立ちし、さらにはベテラン並みの生産性を発揮してもらう必要があります。実際、既に多くの新戦力人材が現場に入ってきていますが、その教育もベテランに依存しており、日常業務と教育の両立がベテランたちの過剰な負担となっています。

こうした構造的な問題からなかなか抜け出せない背景には、「業務上必要な情報を収集して業務をまわせるようになるまでに時間がかかる」ことが大きな影響を及ぼしています。

現場ではいまだに紙の書類を使った業務が残っています。これらは習慣として残っていることもありますが、行政や取引先とのやりとりなど社内だけでは改善が難しい理由も重なって、デジタル化が進まない状況が存在します。また、既にデジタルデータが存在していても、社内システムやファイル管理ツールなど、データが散在し、異なるバージョンの同様のデータが複数箇所に存在していたり、複雑な状況が生じています。これらの中から業務に必要な情報を選び抜くためには経験知が不可欠で、新戦力人材がこの力を身につけるまでに平均して5〜10年もの時間がかかるそうです。

こうした現状を打破するために、「新戦力人材でも業務に必要な情報を容易に取得できる仕組み」を目指して、さまざまなDX施策に取り組んできました。

データをデジタル化し、散らばった情報を集約していく旅

取り組んできたDX施策を、ざっくり抽象化すると以下のようなストーリーを思い描いています。

まず、業務に必要な情報を集めるためには紙、社内システム、ファイル管理ツールなどさまざまな情報ソースに当たらなくてはなりません。それらを使いこなせるかどうかは経験知に依存しています。

最初の一歩として、一部のデータをデジタル化し、それを基に試験的なソリューションを構築・検証(Proof of Concept = 概念実証)します。

コンセプトが固まったら、徐々に業務での利用範囲を広げ、うまく軌道に乗ったところで、さらなるデジタル化やデータベースへの集約を進めていきます。多様なデータが一元的に扱えるようになるほど、より複雑な問題解決や高度な活用が可能となり、DXの実現に近づけていくというストーリーです。

DXのアプローチを一言で表すと、「データをデジタル化し、散らばった情報を集約していく旅」です。

DXに立ちはだかる2つの壁

こうした取り組みを繰り返してきて、なかなかDXが実現しない理由として2つの壁があるように感じています。

第1の壁は、「データをデジタル化し、集約する壁」です。 まずはとっかかりをつけようとPoC(Proof of Concept = 概念実証)を行いますが、その取り組みはたいていの場合、「もしもデータが準備できれば、こんな問題解決ができるかもしれませんよ」という形式になります。ですが、データをデジタル化すること自体に大きなコストがかかります。ソフトウェア投資がされたとしても、結局は人力でデータ入力しないといけないので、なかなかデジタル化が進みません。

第2の壁は、「ユーザーのITリテラシーの壁」です。 実際に素晴らしいソリューションができたとしても、新たな壁が立ちはだかります。特にスマートフォンネイティブ世代などデバイス操作に慣れている人たちは、すぐにソリューションを使い始めてくれて、その効果を実感してくれることが多いです。彼らは実際に現場で課題を抱えているため、巻き込み、協力体制を築きやすいです。しかし、本当に業務の中にソリューションを組み込んでいくためには、必ず新戦力人材をマネジメントしている人たちを巻き込んでいかなければなりません。普段の業務の中でPCやデバイスを利用していない人たちも多いため、簡単な操作であったとしても抵抗感が強くて、そこで頓挫してしまいます。

これまでさまざまなDX担当の方とお話してきましたが、この2つの壁のどちらかあるいは両方にぶつかり、DXの取り組みが前に進まないという現状があるように思います。DXという言葉を聞くようになってしばらく経ちますが、多くの企業では「スローガン」にとどまっている現状があります。時代が過ぎ去って人が入れ替わるのを待つしかない、そんな諦めの声を聞くこともありました。

生成AIの登場によって突破口が!?

ChatGPTをはじめとする生成AIプロダクトが登場し、慣れ親しんだチャットUIで、自然言語を使って気軽に利用できるAIに多くの人が衝撃を受けました。もちろん業務で活用できないか、という流れが生まれ、2023年以降こうした取り組みは各社で加速度的に増えました。

私たちも、チャットUIで気軽に建物の施工情報や仕様や要件を尋ねることができる「建物みえるくん改」というデモをつくりました。これは、建設業でよく登場するBIM(Building Information Modeling)を情報ソースにして、チャットUIで自然言語で建物の中の仕様や要件を聞くことができるというものです。

これは、RAG(Retrieval-Augmented-Generation)という仕組みを使っています。RAGは、LLMによるテキスト生成に、外部情報ソースの検索結果を組み合わせることで回答精度を向上させる技術です。今でも生成AIの取り組みの中でよく使われる仕組みですが、大きな利点は既にもっているデータソースを活用することができる点です。プライベートなLLM環境を構築し、既に社内に存在しているデータソースとつなげて活用することで、情報公開範囲を社内に限定しながらLLMを活用することができます。

こうした生成AIを活用した取り組みは、DXに立ちはだかる2つの壁の突破口になりうる可能性があります。

第2の壁である「ユーザーのITリテラシーの壁」に対して、自然言語とチャットUIの組み合わせは強力です。PCやデバイスによる操作になれていない方でも、業務やプライベートの中でチャットアプリケーションを使われている方はとても多いです。同じユーザー体験の中で問題解決がなされるのであれば、抵抗感をおさえることができるかもしれません。

これまでは、紙やPDFといったデータを活用するためには、デジタル化をして構造化データに変換する必要がありました。その際に、ソフトウェアを導入したとしても、デジタル化作業自体は人力で行わなければならないことが多いです。なぜなら、もととなる紙やPDFのデータはデジタル化目的で作成されていないため、文章だったり、フォーマットがバラバラだったり、表記揺れがあったり、構造化されていないデータだからです。これらをプログラムで一括インポートするのはなかなか難しく、業務内容をある程度把握している人が、人力で構造化データに変換する必要があります。これが、第1の壁である「データをデジタル化し、集約する壁」でした。

しかし、LLMを活用することで、構造化されていないデータでも、それなりの精度で解釈して構造化データとして扱うことができます。もちろん精度の問題はありますが、精度はそこそこになったとしても人力でデジタル化する工程をスキップする選択肢を取れることは大きなメリットです。

生成AIの取り組みの中では、「精度」の話題がよく出てきます。たしかに精度を求められる業務が存在する一方で、そこそこの精度でもいいから気軽に使えることが大きな利点になる業務もたくさん存在します。また、精度を求められる業務に関しても、過程の部分をLLMを活用して自動化し、出力されたものを人がチェックし加工することで、全体のリードタイムを大幅に縮めることができます。そして、この1年の変化を見ても分かる通り、生成AI自体の進化のスピードが凄まじいため、精度の問題は時間の経過とともにどんどん解消されていく部分だと考えています。

生成AIによってうまれた新たな二極化

生成AIの登場から1年が経過し、生成AIプロダクトを業務の中で活用したり、RAGなどを用いた生成AIを活用したソリューションを活用する機会がとても増えました。こうした中で新たな二極化が生まれています。

自然言語とチャットUIの組み合わせは、多くの人が使い慣れているため非常に強力です。一方で、プロンプト(=指示や命令)と呼ばれる入力値によって得られる回答が大きく変わります。

仕事ができる人たちは、効果的なプロンプトを書くことができます。仮にLLMから良い結果が得られなかったとしても、プロンプトをチューニングしていくことで結果的に良い結果を手に入れて業務を効率化していくことができます。一方で、これから仕事を覚える人たちは効果的なプロンプトを書くことが難しいです。また、LLMから返っていた回答を見ても良し悪しが判断できないため、なかなか業務に活かすことができません。

生成AIから望ましい結果を得るために、プロンプトを設計し最適化するスキルのことを「プロンプトエンジニアリング」と呼びます。もはや新しいプログラミング言語といっても過言ではありません。

仕事ができる人たちはLLMを活用し、どんどん自分の業務を効率化して生産性を高めていきます。一方で、これから仕事を覚える人たちはLLMをうまく活用することができず、これまでと変わらない状況に留まってしまいます。このような二極化が現実として生まれています。

いかに気付いていない情報に気付いてもらうか

この二極化の問題に対して、いくつかの取り組みをしてきました。

一つは大成建設様と取り組んだプロジェクトです。大成建設様とは、数年にわたりDXプロジェクトをご一緒しております。その一環で、2024年初頭に生成AIを活用した取り組みを行いました。

C3-BIMというプロダクトは、誰でも設計図書(データ)や社内外の文書から必要な情報を探すことができる「検索エンジン」です。図面に関する専門的な知識が備わっていない、かつ業務情報が社内のどこにあるのかわからない新入社員や派遣社員のような新戦力人材でも素早く必要な情報を取得、確認することができるWebベースのプロダクトです。

自然言語によって情報を検索できるという点ではよくあるプロダクトです。しかし、回答結果の内容を工夫しています。

まずユーザーは担当している建築プロジェクトの中で知りたい情報を自然言語で質問を投稿します。質問文を解析し、次のような回答を出力します。

  • AIからの回答
    • 投稿された質問文に対して、生成AIがBIMデータを活用して回答結果を出力します。
  • 回答に関連した部屋の情報
    • AIからの回答に関連した部屋情報を表示し、PowerBIダッシュボードへ飛んで詳細の設計情報を確認することができます。
  • 関連性が高い社内外の文書
    • 投稿された質問文とAIからの回答をもとに、関連性が高い社内外の文書のドキュメントのリンクを表示します。
    • 社内文書は、特記仕様書や社内にある溜まっている施工事例などのノウハウ集が情報ソースです。
    • 社外文書は、公開されている標準仕様書やノウハウ集が情報ソースです。
    • ドキュメントのリンクは、関連した情報が記述されている箇所に飛ぶように設定されています。

それぞれの回答は、LLMを活用して生成しています。LLMから返ってきた回答を使ってさらにLLMに問いかけたり、複数のプロセスを同時に走らせて回答を生成しています。

狙いとしては、「ユーザーが気付いていない情報に気付いてもらう」ことです。ターゲットユーザーが新戦力人材なので、前述の新たに生まれた二極化にあるように、よい質問文を書けない可能性が高いです。そのため、単純に質問に対して回答するだけでなく、拡大解釈して関連しそうな情報をたくさん提示することを意図しています。

これらのもととなる情報は、BIM・紙・PDF・Excelというさまざまなデータフォーマットで、社内システム・ファイル管理ツール・Web上など散在していたデータです。

こちらの取り組みに関しては、HoloLab Conference 2024で講演をしたので、ご興味がある方はぜひご覧ください。

BIMから3次元モデルを消してみたら意外に便利だったR2-BIMがAIによってさらに便利になりました

敢えてユーザーにプロンプトを書かせない

もう一つの取り組みは、私たちのチームでつくってみたデモ、「仕事できるくん」です。

製造業や建設業では、書類をきっかけにした業務がたくさん残っています。仕事できるくんはそうした業務をターゲットにしています。業務で使用する書類(PDF)をアップロードして、ボタンを押すと生成AIによって解析した結果が出力されます。ユーザーは質問文やプロンプトを入力する必要がありません。

仕事できるくんの狙いは、現在の業務でベテランが行っていることを生成AIによって再現することです。

現在ベテランの方がターゲットにしている業務をどのように行っているかというと、書類を読みながら経験知をもとにいくつかの観点で必要な要件を抽出しています。抽出した要件を、実際の設計情報ではどうなっているのか設計図書等から情報を収集し、照らし合わせて要件を満たしているのかを確認しています。

こうした業務を生成AIによって再現することを試行してみました。

ベテランの経験知をプロンプトに変換し、他人が活用できるようにすることを目指しています。そうすることで、新戦力人材でも同じ業務を行うことができるようになります。経験知をプロンプトとして形式知に変換していくことになるので、生成AIを活用した技術継承と言えるかもしれません。

ユーザーにプロンプトを入力させてソリューションから得られる結果の質をユーザー依存にするのではなく、あらかじめ業務を分析し、チューニングされたプロンプトをシステムの裏側で活用する。これは、LLMを活用したアプローチの一つの型になりうるでしょう。

仕事できるくんに関しては、HoloLab Conference 2024で講演をしたので、ご興味がある方はぜひご覧ください。

仕事できるくん:文書とBIMに関連する大変な作業をChatGPTにやらせてみるとみんな仕事ができるようになる!?

そしてAIエージェントへ

今後の生成AIのトレンドとして「AIエージェント」に注目をしています。2024年11月19日に開催されたMicrosoft Ignite 2024においても、AIエージェントの話題が盛り沢山でした。

これまでにOpenAI社のSam Altman氏が度々発信されているように、ChatGPTはまだまだ進化中です。現在のChatGPTは「Level1:チャットボット」と「Level2:推論者」の間くらいのステージで、次の「Level3:エージェント」の実現に向けてさまざまな機能のアップデートが日々繰り返されています。

AIエージェントとは、人がいちいち指示をしなくても、自分でやることを考えて、さまざまなツールを活用して目標に向かってタスクをこなしていくAIの仕組みのことです。そして仕事の支援に留まらず、完了を目指すことも大きな特徴の一つです。

私も勉強中ですが、概要をつかむために読んだ下記の書籍が個人的におすすめです。

企業の中の現状を見てみると、業務毎に社内システムが使われていたり、他社のパッケージやSaaSを使っていたりします。これまでの生成AIを活用した取り組みもその構図からは外れておらず、また新しいツールが一つ増えることになります。従業員目線で見たときに、一つの業務をこなすときに一つのツールで完結せず、複数のツールを使いこなして業務をこなしていくことが多いです。この状況は、経験知やITリテラシーなど人に依存します。

それに対して、AIエージェントの考え方はツールや生成AIの使い方自体を生成AIに任せて仕事を変わりにやってもらうというものです。これが普通になった世界観を想像すると、これまでの生成AIの盛り上がりはほんの序章に過ぎないように感じます。AIエージェントがふつうになってからが生成AIの本領発揮なのかもしれません。

少し話は戻りますが、「仕事できるくん」のときにつくっていたデモの仕組みはLangChain Agentsを利用していて、初歩的なAIエージェントのようなつくりをしていました。業務を分解したときに、それぞれ別のツールを使って行う小さな業務を生成AIに任せ、その結果を組み合わせて全体の業務を推進する。AIエージェントのことを学べば学ぶほど、筋は悪くなかったんだな!と思うようになりました。

DXとAXは地続きである

DXやAXという言葉はバズワード化していて、飛び道具のように感じてしまうかもしれません。もしくは生成AI自体も、結局流行り物で、それほど業務で使えないと感じている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、ここまでお話してきたように、現場の問題に向きあって取り組んできたことと、技術の進化やトレンドを照らし合わせてみると、着実に前に向かって進んでいることを感じます。完全に問題が解決することはこれまでできなかったかもしれませんが、試行を繰り返すことで少しずつ問題が移動していき、それに対して生成AIなど新たな技術が追いついてきているような感覚を得ています。

DXとAXは地続きです。

最後に

ホロラボでは、今後も 「空間コンピューティング×AI」 に力を入れていきます。詳細は、私が所属している新規事業開発部で一緒に働いている久保山さんが書いた「今、新規事業に投資する理由 -空間コンピューティング×AIを社会にチューニングしていく-」をご覧ください。

また、今回ご紹介した生成AIの取り組みにご興味がある方や、「生成AIを活用した問題解決をしたい」と考えている方はぜひお問い合わせください。情報交換や壁打ちからでも構いませんので、ぜひお気軽に。お問い合わせはこちらから!

もし、この環境で一緒に働くこと、あるいは会社や取り組み自体にご興味を持ってくださった方は、ぜひ採用ページをご覧ください。

hololab.co.jp

また、「ちょっと話を聞いてみたい」「現場の生々しいAI活用の話をしたい」「とりあえず雑談したい」という方は、気軽に雑談できる場もご用意しています。

pitta.me

これからも自分たちの取り組みを、ブログやコミュニティなどさまざまな場面で発信していきます。ご興味を持たれた方は、ぜひお気軽にお声がけください。

今、新規事業に投資する理由 -空間コンピューティング×AIを社会にチューニングしていく-

こんにちは。ホロラボの執行役員 / 新規事業開発部長 久保山です。

本日はホロラボ Advent Calendar 2024の19日目です。

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いよいよ 「空間コンピューティングとDX」 という壮大なテーマについて書くチャレンジも最後の記事です。

「空間コンピューティングとDX」

  1. ホロラボはどんな業界のどんな位置にいる会社? [12/6公開]
  2. 空間コンピューティングをDXに活用するには? [12/13公開]
  3. 今後の新規事業をどう考えてどう取り組む? [12/19公開 本記事]

最初の記事では、「空間コンピューティングとDX」というテーマで記事を書き始めた背景を。前回は「空間コンピューティングによるDXの期待と現実」と題して、DXに空間コンピューティングを活用するときに何を考えるかについて書きました。

最終回の本日は「これからどのように新規事業を企画・検証していくつもりなのか」について書き出しておこうと思います。

非連続な成長を目指す新規事業

ホロラボの主力事業は、名だたる大企業のお客様とともに、XR・3Dデータが関わるシステム開発を行うこと。この8年で会社はだんだんと成長をしてきました。 ただ、XRへの期待がとても大きく盛り上がっていた創業期に描いた成長をしているかというと、そうとは言い切れません。多くの人が当時想像していたくらいに現在XRが普及しているかというと、普及はまだまだ限定的です。

ホロラボは自社プロダクトを持っていますが、あくまでも中心は受託開発。お客様が試したいこと、作りたいもに対して技術の専門家として寄り添い、多くの取り組みを行なってきました。業界も製造業、建設業、通信、インフラ、医療など、多岐に渡り、特にどこかの領域に絞ることもしませんでした。

経営上、「選択と集中をして事業を伸ばす」ということがセオリーですが、コロナ禍による生活の変化や当初期待されているほど普及しないXRなどの社会情勢を振り返ると、業界等を絞ったり特定のプロダクトに集中したりしなかったことが、結果的にホロラボを生かしてきたと思っています。

ただ、今後もその戦略のままでいいのか。ミッションである「フィジカルとデジタルを繋げ、新たな世界を創造する」ことを実現できるのか言われると、自信を持ってYesとは答えられません。本当に新しい世界を創造するには、それを担える事業規模や専門技術を持った多くの仲間が必要です。そのために今期から、新規事業開発の役割を担うチームを組成し、非連続な成長を目指していくことにしました。

今できないことも数年後にはできる可能性

なぜ今、新規事業開発に投資することにしたのか。その一つは空間コンピューティングを取り巻く様々な技術の変化です。 エンジニア目線だと細かな技術の分類があるとは思いますが、非エンジニアな私でも顕著に感じる3つの変化を書き出します。

デバイスの性能

年々、PCはどんどん性能が上がっていますし、スマートフォンやタブレットも性能が上がっています。同じようにスマートグラスやヘッドマウントディスプレイもデバイスの性能が上がっています。数年前は視野角も狭く、複数の3Dデータを表示するのはとても大変でした。その後、デバイスの性能は著しく向上し、かなり高精細なデータを表示できたり、ビデオシースルー方式で視野角もまったく気にならないデバイスも増えました。まだ屋外での利用やバッテリーの持ちなど、業務上の課題になるような要素もありますが、これから5年、10年の間にさらにデバイスが進化していくことが予想されます。そしてまさに今、各社から新しいデバイスが次々と発売されています。

3Dデータ作成技術

数年前はXR技術を試してみたくても、そもそも表示する3次元データが手元にないことが大半でした。その後、製造業では3D CADでの設計が増え、建設業ではBIM / CIMなどの国を挙げての3Dデータの推進が行われています。また、レーザースキャンやフォトグラメトリ、Gaussian Splattingなどによって点群や3Dモデルを作成することも増えています。LiDARセンサー付きのiPhoneなどを利用すれば、簡単に3Dデータを作成できるようになりました。AIを利用した3Dデータ作成も様々なところで研究開発されています。まだ必要な3Dデータが足りなかったり、高精細なデータを作るにはコストがかったりするなどの課題もありますが、これから5年、10年の間に3Dデータの作成技術は向上していくことが予想されます。今以上にたくさんの3Dデータが、今よりも簡単に作成されることになるでしょう。

通信

3Dデータはデータ容量が重くなりがちで、データの送受信には通信環境が強く影響します。数年前は、業務を行う場所によっては通信環境がなく、デバイスにあらかじめデータを入れて持っていかないと現地でデータを使うことができませんでした。それが5Gの普及とともに、多くのお客様がスマートフォンのテザリングを使って3Dデータを現地でダウンロードしたり、ストリーミング表示をしたりする光景をよく見るようになりました。それでも場所によっては通信環境が弱かったり、より高精細になっていく3Dデータの送受信には不十分だったりと課題はありますが、これからも通信環境やシステムが進化していくことは間違いないでしょう。今以上に大容量なデータの送受信が遅延なくできるようになるはずです。

このように、ここ数年の間だけでも取り巻く技術の向上により、空間コンピューティングを利用する環境が変化してきています。それら技術の変化を体感するとともに、ホロラボにはこれまでの様々な取り組みにより「何が技術的に難しいか」、「何が運用に乗せづらいか」の知見が蓄積されてきました。

新規事業開発は投資を始めれば半年や1年で簡単に花開くような性質のものではありません。数年がかりになることを覚悟しつつ、1日でも早く新たな事業の柱を作るために全力で走るものです。だからこそ、「今は何が可能なのかという知見」と「数年後に何ができるようになりそうかの予測」を持っている今が、新規事業開発に取り組むタイミングだと考えています。

AIに向き合い、AI時代に備える

生成AIブームにより、お客様からも「AIを使ったら◯◯ができるのでは?」という相談が増えました。また、最近はどこもかしこも「AIエージェント」の話題ばかりです。空間コンピューティングでもAIでも、新しい技術を使えば手放しで問題が解決し、新しい価値が生まれるかというとそんなことはありません。技術自体が直接価値を生むというよりも「新しい技術を事業や業務にチューニングし、活用できる形した誰か」が価値を生んでいきます。

どんな技術もチューニングされなければ使いものになりません。そして、そのチューニングが大変だったり時間がかかったりします。それを見て「この技術は使えない」と見向きもしなくなる人がいます。そうではなく「この技術は ”この用途” では ”今は” 使えない」だけかもしれません。AIには多くの人が大きな可能性を感じており巨額な資金が投資され、短期間の間にどんどん進化していっています。そして、空間コンピューティングにもBig Tech各社が投資し、新しいデバイスが毎年発売されています。これら技術はいつか誰かが社会に適応させ、普及していくでしょう。それが早いか遅いかの違いくらいだと思います。そして、空間コンピューティングとAIが掛け合わさることでスピードが上がる可能性があります。

今、AIに取り組まないという選択肢はありません。ホロラボは新規事業開発の一環として、「空間コンピューティング×AI」の可能性を模索し、それらを社会にチューニングすることに取り組んでいきます。 新規事業開発部としては、すべての活動をAIに限定するわけではなく、他の可能性も合わせて模索をします。ただ、どんなテーマにも将来的にAIが関係してくるという前提で、業務フローやデータなどを分析・検討していくつもりです。また、既存事業を担当している中にもAIに取り組んでいるチームがありますので、お気軽にご相談ください。

私たちは”事業”をつくる

最後に、改めて新規事業開発部の役割を確認しておきます。

「新規事業開発」という言葉を聞くと、多くの人は「プロダクトを開発する」というイメージが湧くのではないでしょうか。私たちはソフトウェア開発を行っていますので「ソフトウェアプロダクトを作るのかな」と思いがちですし、社内でもそう思っている人は少なくないかもしれません。ただ、私たちがつくるのは「新しい柱となる事業づくり」です。私たちは「プロダクトは事業づくりの手段の1つ」だと捉え、ソフトウェアを作らない可能性は低いかもしれませんが、そこにとどまらない視野で事業づくりに取り組んでいきます。

日本におけるSaaSの普及率は米国に比べてまだ低く、まだ日本においてはSaaS事業の余白は残っていると思われます。ただ、単独のソフトウェアだけで数百億円規模の事業ができているケースは非常に少なく、マルチプロダクトやプロフェッショナルサービスとの組み合わせが主流です。これから大きな事業を作ることを目指すのであれば、単一ソフトウェアプロダクトでの展開だけを考えるのではなく、コンパウンド戦略のように最初から複数のプロダクト・サービスの展開を描きながら、最初のプロダクト・サービスを作っていく必要があると考えています。私は10年前に起業した経験があるのですが、特にソフトウェアプロダクトを主とする事業者にとっては、投資家からの期待も実現の難易度もどちらもかなり高くなっていると感じます。

なので、空間コンピューティングやAIを活用したソフトウェアをつくるとしても、単にそれを売るだけとは考えない。例えば、「それらを活用した新しいオフィスを提供できないか」とか「それらを活用した新しい店舗を運営できないか」とか「それらを活用した新しい倉庫や工場を作れないか」などまで発想を広げています。

そして、これら事業の種を見つけ、磨き、価値あるものに仕上げ、技術を社会にチューニングしていくには、目の前のお客様にしっかり向き合うことが最重要だと考えています。私たちがただただ色んな世界を夢想するだけでは何も出来上がりません。いきなりプロダクトやサービスを作り始めるのではなく、目の前のお客様の成果にこだわり、向き合っていく中で新しい事業が生まれていくと信じています。

ホロラボでは現在、1人目の「エンタープライズセールス」を募集しています。まさに今、新しい挑戦が始まったばかり。たくさんの困難が待ち受けていると思いますが、何よりも刺激的で、成長ができ、本当に新しい世界を創れるかもしれない。そんなチャレンジを共にする仲間を募集中です。

募集ページ:エンタープライズセールス

終わりに

今回の Advent Calendarにおける私の出番はこれで終わりです。 「空間コンピューティングとDX」という大テーマを掲げてホロラボの過去、現在、未来について記事を書いてみましたがいかがでしたでしょうか。

明日は及部さんによる「DXからAX(AIトランスフォーメーション)へ、製造業や建設業の現場で起きていること」です。

我々はXRデバイスのUIフレームワークとしてMRTKを使い続けるべきなのか?

ホロラボ Advent Calendar 2024、18日目は、林が担当します。

adventar.org

この Advent Calendar 、執筆担当日とテーマタイトルは、ホロラボCEOの中村から打診があります。

今日の担当テーマは「ソフトウェア開発における技術トレンド」なのですが難しいテーマです。

たぶん、ChatGPTが提案したテーマだと思います。

悩んだのですが、今回はテーマに沿いつつ、「我々はXRデバイスのUIフレームワークとしてMRTKを使い続けるべきなのか?」というタイトルで記事を書きます。

そもそもMRTKって何?

MRTK とは Mixed Reality Toolkitの略称で、Unity上でクロスプラットフォームでXRデバイス向けのUI構築を行う事ができるフレームワークです。

アプリケーション開発者はMRTK を利用することで、いろいろなXRデバイスで動作するユーザーインターフェースを比較的簡単に構築することができ、アプリが本来持つ価値の提供(PoCの早期実現やロジックの実装)に専念ができます。

MRTKはマイクロソフトが推進するオープンソースプロジェクトで、無料で利用する事ができます。

リリース当初は、HoloLens や Windows Mixed Reality などのMRデバイスに対応するアプリケーション開発のためには必須のものとして登場し、私自身も、ホロラボとしても多くのアプリケーションをMRTKを用いて、開発をしてきたした。

対応デバイスは順次拡充されつつ、開発者自身も自らカスタマイズできる事から、現在ではHoloLensのみならず多くのデバイスへの対応が行われています。

MRTKが対応しているデバイスの例

※(非公式/実験的なものも含みます)

  • Meta Quest 3
  • Apple Vison Pro
  • Think Reality A3/MiRZA (Snapdragon Spaces)
  • Magic Leap 2
  • Microsoft HoloLens 2
  • Varjo XR-3

MRTK、良いのだけど、ご利用は慎重に。

MRTKは素晴らしいツールキットなのですが、私自身、利用するのは慎重派です。

XRアプリ開発するなら利用して当然かというと、以下のデメリットもあると思っています。

  1. 動作が重くなる/ビルドが遅くなる
    • リッチなUIフレームワークであり、半透明処理も採用されていて、簡単に見栄えのするアプリケーションが作れるのは良いが、導入した時点で、CPUやメモリリソースをある程度使ってしまい、本来の表示したいコンテンツに割り当てられるコンピューターリソースが減ってしまう。(ただし、最近のMRTKは改善しているという話も聞いてたりはするので、昔の印象かもしれません)
  2. スマートフォンと共通のUIが作れない(一度使うと、やめられない)
    • 空間UIに特化した3D UIコンポーネントを利用した操作体系なので、iPadとXRデバイスなど、スマホとのクロスデバイスアプリケーションの場合は、共通UIが作れない。後からスマートフォン対応しようとしたときに苦労する。
  3. UIとロジックが混ざってしまいがち
    • 大量の便利なサンプルシーンや使いやすいコンポーネントが揃っており、PoCやモックアプリを、素早く作ることができるのですが、その反面、ロジックとUIが混ざってしまいがち。簡単に実装できる分、設計が疎かになってしまい、移植性や拡張性に問題が発生することがあります。

2と3はいずれも、設計段階で考慮すれば、許容できる話で、便利さの裏返しの気もしますが、考えずに導入すると、のちのち、面倒なことになったりします。 いずれにせよ、長期にわたってメンテナンスするプロジェクトにおいては、ロジックとMRTK UIの分離を慎重に行なう必要があると考えています。

Apple Vision Pro の登場でXRデバイスのUIのスタンダードは劇的に変化した

仕事がら、様々なXRデバイスを同時に使う(かぶり変える)のですが、Apple Vision Proを装着して作業した後、Meta Quest 3を装着すると、操作体系の違いに、意識がついていかず、戸惑ってしまう事があります。

Apple Vision Proが登場するまでは、複数のXRデバイスを連続して装着してもほとんど気になりませんでした。

Apple Vision Pro は、高精度のアイトラッキングがついているので、操作対象を見つめて、膝の上で指を小さくタップすることで、UIの操作ができます。

それに対して、Meta Quest 3やMRTKなどの従来のXRの操作は、コントローラーからのレーザーで操作対象を選択して、トリガーを引いたり、腕を持ち上げて、ハンドトラッキングで、操作対象のボタンをケンシロウのように直接指でタップする必要があります。体を動かす量が全然違います。

Meta QuestやMRTKの操作フィールは、それまでは、あたりまえに思っていたのですが、Apple Vision Pro と併用していると、違和感を感じるようになってきました。大げさなのです。

Apple Vision Pro の登場でXRデバイスのユーザーインターフェースの正解/王道が変わりました。

Meta Horizon OSも、最近のアップデートではApple Vision Proを意識した機能追加や、UIのテイストも寄せてきているように思います。

先週発表された Android XR においても、その仕様やUIなど、Apple Vision Proをかなり意識/研究して作られたものであることがわかります。 Apple Vision Pro のUIデザインは当然ながらiOSなどのスマートフォンデバイスとの親和性も考慮して設計されているので、ビッグテックの既存資産やエコシステムの有効活用の観点からも、この流れは続くものと思われます。

Android XR

Meta Horizon

visonOS

で、MRTKはこれからも使うべき?

ここまで書いて、冒頭のテーマに戻ります。

visionOSの登場でXRデバイスのユーザーインターフェースのトレンドは大きく変わりました。 MRTKは2016年に登場したHoloLens 1 からのデザイン思想を引き継いで既に8年、かなり古くなってきています。

これから新たに始まるプロジェクトで、MRTKを使うべきかというと、PoCならいざしらず、実利用のアプリケーション/スマートフォンとの連動性なども考えると、MRTKの導入は長期開発のリスクになると思います。

一方で、多様なデバイスにクイックに対応することが求めらるPoCなどでは積極的に採用することで、クロスプラットフォームで同一の操作体験を提供できることは大きなメリットであると考えます。 このようなケースでは、ロジック層をきちんと分離しておいて、将来的にMRTKの利用を取りやめられるように、設計段階で考慮しておくことがおすすめです。

そもそもコピペができないUnityはどうなのか?

一方で、UIフレームワークとして考えた場合、そもそもゲームエンジンであるUnityを採用した時点で、オブジェクトや文字列のクリップボードへのコピー、右クリック(コンテキストメニュー)などのOSの基礎的な機能が使えなくなってしまい不便です。

Unity as a library (UaaL) などもあるのですが、気軽に、安心してクロスプラットフォームで使える状態ではありません。ゲーム系であれば、それで問題無いかもしれませんが、ビジネス系のツールアプリではこれが結構致命傷になったりします。

そう考えると、MRTKの導入をためらう程度に、ユーザーインターフェースにこだわりを持つのであれば、Unity Engineを利用せずに、KotlinやSwiftを利用したネイティブ言語での開発を検討した方が良いかもしれませんね。

明日

明日は新規事業開発部 部長/執行役員の久保山さんが担当します。

お題は「空間コンピューティングとDX」の3日目です。